恋ぞつもりて 淵となりぬる

 

 2016年、大好きなピアニストさんによる映画のラブソングを集めたピアノコンサートのために書き下ろし、ポストカードにもなっている"So in Love" は、猫を抱く着物姿の女性を描いたインク画です。

 

 

 "こんなにも愛してる"…そう歌い上げる楽曲"So in Love"は実は映画ではなくミュージカル"Kiss Me Kate"のメイン・テーマですが、日本では日曜洋画劇場のエンディング曲としてもよく知られる名曲です。

 

 副題に、百人一首より陽成院が婚約者に贈った一句

 

「筑波嶺の 峰より落つる 男女川 恋ぞつもりて 淵となりぬる」

 

より下の句だけを配したのは、ポスターにした時、絵とのバランスがよかったからという単純な理由でした…。

 

 これはその当時のポスターです。

 

 とあるバーチャルの箱庭でコンサートが開かれたのは中秋の名月の頃…巻き薔薇のような無造作な束ね髪に実る葡萄の帯、ダリアの総柄の中振り袖の裾がはだけていることにも気を留めず意中の人を想い猫を包むように抱く“彼女”の、幼すぎず知りすぎない恋の色を映す表情や仕草の美しさを探して、何度も下絵を描きました。

 

 「最初はほのかな好意ほどでしかなかった印象も、共に過ごす時間につれ恋心を育みゆっくりと深くなっていく。まるで筑波山から滔々と流れ落ちる男女川がだんだん太く水の嵩も増してついには深い深い淵になるように、あなたへ注ぐ私の想いは大きく強くなりました。」

 

 後撰集の詞書には「釣殿(つりどの)の皇女(みこ)につかわしける」と書かれているそうです。

 10歳で即位し、病のため17歳で譲位した第57代天皇の陽成院が周囲の定めた後のお妃(光孝天皇の娘、綏子(すいし)内親王)に捧げた恋歌は、若くまっすぐに誠実でその背景を知るほどにおもむき深く、この絵の情景の奥行きを幾重にも豊かにしてくれます。

 3年を経て改めて、1100年あまりの時を超え若き帝の恋物語を懐かしむような心持ちにもなるのです。

 

 

おまけ

 ポストカードの宛名面にはそれぞれの絵に合わせた小さなイラストが入っています。

 この絵には、麻の葉模様をバックにちょっとふてぶてしくて媚びない面持ちの黒猫が1匹。

 カードをお手に取る機会にはお目に留まりましたら嬉しいです。

 

 

- So in Love -
for the piano concert of amina Aeon 2016.
w220 x h275 Lettering ink on Wirgman